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鮮華伝

鮮華伝005 湯あみの帰りに

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 白扇は汗と土で汚れた体を湯あみで綺麗にしようと思ったが、如何せん、この宿屋の個室にそのような設備は備え付けられていない。

 とすれば、共用の場所を使う以外にないのだが、

「駕刻、いるか?」

「む? 兄者、どうかしたのか?」

 鉾の手入れをしていたらしい彼はすぐに隣の部屋から顔を覗かせる。

 この宿屋は隣室との間に扉があり、頼めば行き来できるようになっていて、主に頼んでそうしてもらった。反対側の部屋には鈴が宿泊している。

「ああ、汚れて気持ち悪いから、湯あみをしたいと思うのだが……」

 その言葉で察したのか、駕刻は厳つい顎に指を添えて考え込む。

「であれば、装備を解いて、普通に行けば気づかれますまい。下手に俺がついていくよりは、鈴殿に頼んだ方が怪しまれもしないでしょうし」

「やはり、その方がいいか。鈴の腕を信頼してないわけではないが、やはり女子というのは狙われやすいからな」

「この邑なら、そう警戒することもないでしょう。なにより、修刑殿や蒼刑もいる」

「そう、だな……」

 白扇が納得を見せると、駕刻は頷きを送って自室へと引っ込んだ。

 白扇は一度鈴へと湯屋へ行くことを告げ、そして、未だに身に着けていた軽装の甲冑を脱ぐ。着脱は簡単なものなので、一人で脱ぐことが可能だ。

 そして、布のみの軽い姿になると、最後に編んで団子のようにしていた髪を解く。すると、編んだ形に癖のついて波打った髪が背中に広がる。

「ふぅ……」

 本来の自分の姿。まだ、解くべき部分はあるが、それは湯屋に行ってからすれば十分だ。

 隣室へ声を掛けると、鈴も支度を終えたところらしく、武器も置いた軽装で姿を現した。

「じゃ、行こっか」

 快活に笑い、白扇の腕を引く。

 白扇もなされるがままに腕を引かれ、ついていく。

「にしても――」

 鈴の視線が無遠慮に白扇の肢体へと注がれる。

「いつもの格好だとやっぱり違って見えるわね」

「そうでなければ困る」

 白扇が言い返すと、鈴は呆れを見せ、

「その口調。こっちの格好のときぐらいは普通にしゃべりなさいよ」

「あ、うん。そうだ……いえ、そうね。これで大丈夫、よね?」

「ええ」

 実を言うと、白扇は世間に対して性別を偽っている。本当は女だが、義勇軍の盟主であることを続けていく上で、女という性別は不利に働く。そう、駕刻と話し合い、普段は男として過ごすことを決めた。

 不都合は多いが、鈴のような理解者や、それを気にしない修刑や蒼刑のおかげで今までうまくやってこれている。

 だが、不安要素が一つ。錬清のことだ。

 恐らく、彼は白扇が本当は女であることを知らない。そして、女であることを知ったらどういう行動を取るか、だ。

 黙っているならよし。もしも、それを吹聴するようならば、

「討つしかない、か……」

「誰をよ。というか、難しい顔してたと思ったら、いきなりなに?」

「ああ、いや。応唯錬清のことを、な」

「ああ、彼ね」

 鈴も少し思案顔になり、しかし、

「なるようにしかならないでしょ」

 と、あっけらかんとした態度で言い放つ。まあ、それはそうなのだが、そうなったときのことを少しも考えないのは無謀である。多少は対策を練っておいた方がいいとは思うのだが、しかし、それは白扇の都合か。

 いくら白扇が性別を偽っていることに理解を示してくれているとはいえ、全面的に賛同している訳でもない。

「まあ、それもそうね」

 だが、結局はなるようにしかならないのかも知れない。特に、あの応唯錬清という男に対しては。

 彼のことを頭の片隅に置き、しかし、白扇は久しぶりの解放感に身を委ねながら、鈴との話を楽しんだ。

 湯屋に着き中を見るが、ほとんど人はいない。営業中であるから、利用はしていいようだが、まだ込み合うには早い時間のようだ。

 受付にいた肉付きのいい女性に代金を前もって支払い、女性用の脱衣所へと向かう。

「さて、これで汚れともおさらばね」

 生まれついての傭兵である鈴でも、さすがに汚れたままというの気持ちが悪いのだろう。

「お先」

 彼女は手早く衣服を脱ぎ捨て、藤編の籠に突っ込むと、我先にと浴室へと駆け込んでいった。

「まったく……」

 白扇は苦笑を浮かべ、そして、自らも衣服を脱いでいく。上衣の下には白い細布が巻きつけてあり、それは彼女の胸を押しつぶしている。

 白扇はその細布を丁寧に外していく。また使うから、汚く外すと後が面倒なのだ。

 すべての細布を取り去った胸には、大きくはないが、女性らしい形のいい双丘がある。

 白扇はそれを煩わしいと思う反面、女性で居続けたいとも思っている。

 そんな相反するような思いを振り払い、白扇は浴室へと足を向けた。



       ‡



 湯あみを終え、湯屋が込み合い始める前に出てきた二人は、体の火照りを冷ますために少し散歩をすることにした。鈴の衣服はややだらしなくはだけている。鈴はその少し日に焼けた健康的な色香で道行く男性の目を引き付け、白扇は凛と伸ばした背筋と涼やかな目元、しかし、熱で火照った肌という組み合わせで、これまた衆目を集めていた。

 そんな美女二人に、ほとんどの男は気おくれを感じていたが、その中に、

「おいおい、姉ちゃんたち」

 と、若干呂律の回ってない声で呼びかける男が二人。足元もふらついており、この時間から随分な量の酒気を帯びているようだ。

「なによ、あんたたち」

 前に出たのは鈴で、腰に手を当てて、男たちを睥睨する。

「なーに、少しあそばねぇかって話だよ。いいだろ。あんたらも肌ほてってしかたねぇんだろ? だったら、休めるいい場所知ってんだよ。な? いっしょに行こうぜ?」

 どうやら、男たちの目的は白扇たちの体らしい。目の付け所は悪くない、と自負を抱きながらも、同時に、相手が悪かった、と憐れみを感じる。

「あんたじゃ不足よ。もうちょっと男磨いてから出直してきなさい」

 鈴のすげない言葉に、なおも言いつのろうとする男を無視して、白扇は彼女の腕を引く。

「帰りましょ」

 力づくで除けることも可能だが、荒事にはしたくない。ここは黙って立ち去るのがいい。そう思ったのだが、腕を掴まれ、

「おい、だんまりでさよならか? お高くとまってんじゃねぇよ、この売女が」

「え?」

 耳を疑った。見ず知らずの男から投げつけられた、棘のある言葉。しかも、女性を侮辱する単語を含んだ。

 思わず、怒気が膨れ上がり、腕を掴み返して捻ってやろうかと思った矢先、

「はいはい、何やってんの?」

 軽薄、とも取れる声が割って入り、たやすく白扇と男の腕を引き離した。

 わずかに香る血の匂いとそれに混じってかすかに花の匂いがする。

 顔を上げると、毛先だけが黒い白髪を持つ異貌が見下ろしてきていた。そして、その視線がついとよそへ逸らされる。

 その視線を追うと、そこには困り顔の蒼刑とそして、そのさらに向こう側には背景に溶け込むような気配の薄さで修刑が立っていた。

「全く、帰りが遅いからと思って探しに来てみれば、こんなところで男と密会? 俺は悲しいねぇ」

 顔を手で覆い、嘆く素振りを見せる。その際、目配せが蒼刑へと送られ、それを正しく受け取った彼は頭を掻きながら、

「鈴、お前なんつー恰好してんだよ。ったく、そんなだから俺はお前から目が離せないんだっつの」

「な、なによ。わたしの勝手でしょっ」

「まあ、格好云々でいまさらごちゃごちゃ言う気はねぇけどさ。でも、男遊びは観念な」

「遊んでない。こいつらが付きまとってきただけっ」

 語気も強く言うと、錬清はその顔に獰猛な笑みを浮かべ、

「ほう? とすると、こいつらは俺の女に手を出そうとした、ふてぇ輩、という訳か。斬ってもいいのかね、こりゃ」

 腰の双剣に手が伸び、刀身がわずかに引き出される。陽光を眩く反射する白刃。

「いや、待てよ。俺は、俺たちはちょっと遊ばないかって誘っただけで――いきなり斬られるなんてゴメンだぞ?」

 一気に酔いが醒めたのか、男は引けた腰で後ずさりながら、慌てて弁解する。

「じゃあ、もう手を出さないって誓えるか?」

「ち、誓うから。その女だけじゃなくて、もう軽々しく女に話しかけないからっ。それでいいだろ?」

「本当に誓うんだな?」

 錬清が顔を寄せると、折れるんじゃないかという勢いで首が縦に何度も振られた。

「おし。じゃあ、とっとと去りな。そして、早めに家に帰るんだな」

「わかったよ。いくぞ、お前」

「あ、ああ……」

 男二人は滑稽な格好で逃げ出した。それを見送り、錬清は剣を鞘に納める。

「あういう輩は好かんな、生理的に」

「だからって、やりすぎなんじぇねえか?」

 蒼刑の言葉にしかし首を振り、

「安全な場所で生きてきて、刀傷沙汰なんて自分の身に起こることと思ってなかったからだろ。平和すぎるのも難だよな」

「…………」

 蒼刑は口を閉ざし、やれやれと首を振った後で、改めて白扇に視線を投じる。

「どうしやす?」

 恐らく、錬清のことだろう。白扇は手で彼を制し、錬清に向き直る。

「おい、錬清」

 名を呼ぶと、彼はゆったりとした動作で振り向き、そして、首を傾げる。

「あれ? なんで俺の名前知ってんの? そっちの勝気な方ならわかるけどな……李庵にいたし」

「勝気で悪かったなっ」

「悪いなんて言ってないだろ? むしろ、そういうのは好きな方だぜ?」

 語気も荒く噛みついた鈴に対して、軽薄ともいえる言葉を返す。

「で、あんたは? 李庵には来なかったけど、鮮華の盟員か?」

 この男がとぼけているのか本気なのか測り兼ねた。しかし、このような公衆の面前で名乗りを上げることもない。

 肯定の頷きを見せると、彼はにやりと笑い、

「知ってるだろうが、俺はこれから鮮華と一緒に行動することにした応唯錬清だ。よろしくな、名前を知らない娘さん」

「ええ、よろしく」

 笑顔が引きつっていないかを心配したが、すでに錬清はよそを向いている。

「じゃあ、俺はちょいと用があるからこれでな」

 軽く手を振り、こちらの挨拶を待たずにさっさと歩き出す。

「ありがとうっ」

 まだ礼を言ってなかったことに気が付き、その背中に告げると、背中越しに手を振られた。

 その姿が雑踏に紛れ、見えなくなると、白扇の全身から力が抜けた。

「まったく……なんなんだ、あの男は」

「さあ、知りやせんよ。兄貴なら多少は詳しいでしょうがね」

「なら、後程問うことにしよう。それよりもまずは」

「宿に戻るのが先かしらね?」

「ああ」

 口調が男のものに戻っているのを感じたが、直す気もなかった。

 錬清という男、一緒にいるだけで妙に疲れる。

 蒼刑を伴い、一度宿に戻ることにする。ふと修刑がいたはずの位置を見るが、そこには誰もいなかった。
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